HOME AFTER STORY

AFTER STORY



(某月某日、イエローエリアのとあるバー。
賑やかな店内を背にしたバーカウンターの端の席に、店内の雰囲気にそぐわぬかっちりとしたスーツを着込んだ冷たさの漂う眼鏡の男がひとり酒杯を傾けている。
そこへ如何にも上質そうなビジネススーツを身に纏う金髪オールバックの男があとから現れ、何食わぬ顔で隣に腰掛けてオーダーを済ませると、正面を向いたまま唇を開く)

「……いやあ、おめでとうございます。万事予定通りですよ、ミサキ管理官。全て問題なし、我々の計画通りだ」

「……あまり大っぴらにその呼び方をしないでもらえるか、ミスタ・サンタマリア」

「ミサキ管理官こそそんな堅苦しい呼び方は不要です、どうぞリカルドと――ああ、私の方も“タツヒサ”とお呼びすべきかな」

「……止せ、冗談でも御免被る。そちらも周囲の耳目のある場で“パロミデス”という名で呼ばれるのは控えたいだろう――特に今は。こんなところで君の正体が知れたら、“今回の件で君を信頼しているはずの誰か”の耳にも入り兼ねんのではないかね」

「……まあ、それは確かにそうですな」

「それに貴様らと必要以上に馴れ合うつもりはない」

「相変わらずお固い方だ。『このN◎VAの街の治安を騒がす戦争とやらをさっさと終わらせること以外に興味はない』のでしたか」

「わかっているならばそれでいい」

「……しかし、約束は守って頂かなくては困ります。我々は約束通り、この戦争を決着に向け大きく動かしました――『河渡白夜による音羽南海子の殺害』というカードによって。いや、あのツキモリという男が別件で逮捕されたと聞いたときには肝を冷やしましたが」

「………………」

「それにあの、機動捜査課の元課長……ああ、一応復職はしたんでしたか。彼女に計画を掴まれかけたのもヒヤリとしましたね――まあどちらもミスタ・ミサキのご尽力のお陰で事無きを得たわけですが。いやあ、本当に感謝していますよ」

「……建前はいい。虫酸が走る」

「そうですか、では本題に入りましょう。……これで貴方の望む“この街の平穏”に向けて事態は進展したはずだ。他ならぬ貴方がたのご協力によって。ねえ、ミスタ・ミサキ。この計画が成ったなら、我々はこれからも良好な関係を築いていける、いやむしろ築いていくべきだ。……そういうお約束のはずでしたね」

「………………好き勝手にのさばらせはせんぞ」

「勿論です、貴方がたのご迷惑になるようなことは決して。ただそう、貴方がたを尊重するかわり……ほんの少しだけ、我々に便宜を図って頂ければと。ただそれだけのことです」

「――ここの会計はこちらで持とう」

「有難うございます。これからも宜しくお願い致しますよ、ミスタ・ミサキ」

「ところで……マーダーインクの一部が我々ブラックハウンドへの襲撃計画を目論んでいた、という噂を耳にしたが。何かの間違い、だな?」

「………………、……勿論です。せっかくお力をお貸しくださるというのに、その大切な友人を損ねるメリットが何処にあるというんですか? 少し考えればわかるでしょう――どちらがより利益を生むか、という話ですよ」

「……とんだ狸だ」

「お褒めに預かり光栄です」

(あとから来た男のドリンクが運ばれてくるのと入れ違うようにして、キャッシュを残し去っていく眼鏡の男。残された金髪の青年が何事か北米語で呟いたようだが、店内の喧騒に紛れ誰の耳に届くこともなかった)








このページのトップへ